「この本は問題になるだろうか」「この雑誌は、のこしておいてもさしつかえなかろうか」「けっきょく、なにをのこしておいてよく、なにをのこしておいてはいけないんだろうか」「やさがしをやられたら、なにかあとで、めんどうなことでもあるのだろうか」。日本軍が占領していた頃の上海の話。抗日的な本を所有していることを理由に敵軍に咎められるかもしれない。ならば自分の手で焼いてしまおうと考える。誰かに本を焼かれるのではなく、自らの手で本を焼く。その記憶は強く残る。子供たちが本を焼く姿を見ている。近所の人も相談に来る。統制の噂が走る。誰かに預けて隠す気持ちにもならない。「こころを鬼にして焼いた」。
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