文献を読むということは読者の数だけさまざまな読み方が生まれるということでもある。時間が経つにつれて本は異なる形になっていく。異本が生じる。本というものは単に作者がいて文章を書けばそれで完成するわけではない。本が自分のところに伝わってくる。自分が本のことを誰かに伝える。古典として扱われる本。時代の変化によって求められる本。推敲によってテキストが入れ替わっていく本。本というものが持っている性質は私たちの読書や表現に対しても影響を及ぼしている。「人間は異本をつくらずにはいられない動物のようである」。異本は読者との関係によって生まれてくる。
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