毎日の図書館学

初めて図書館学に触れる学部1年生を想定して図書館に関係ありそうな本を毎日1冊ずつ300字程度で紹介します。

教師のためのからだとことば考

図書館にはたくさんのことばが溢れている。ことばはわたしたちのからだから発している。からだを通して図書館を考える。「「ことば」は、内から発して他者に向かう「行動」です」「多くの人はいわゆる口先だけの声でしか語っていない、からだ全体で語っていない」「人と人とのまじわりは、根元的に、わたしがあなたとふれ合うことに始まる、とわたしは考える。だが、相手に「ふれる」と願う行為の最も大きな盲点は、実は自分の思い込みや習慣の内に他人を取り込もうとしているのだと気づくことが極めて難しいことにある」。ことばを通して他者にふれる。ことばだけではなく、あなたのからだもわたしのからだも他者に向き合っている。calil.jp

レポートの組み立て方

「他人に読んでもらう文書はすべて、A 誰がこれを読むのか。B 自分が書くことについて、その読み手はどれだけの予備知識があるだろうか。C その読み手はどういう目的で、何を期待してこれを読むのだろうか。D その読み手が真っ先に知りたいのは何だろうか。という四つのことをよく考えて、書く内容をえらび、それらをどういう順序に書くかをきめ、表現の仕方を検討しなければならない」。大学に入学したら何度もレポートを書くようになる。自分が言いたいことを適切に伝えるための文章の構成を学ぶ。レポートの構成、レポートの文章、事実と意見の違い、図書・雑誌・新聞などの材料の集め方、出典の示し方。そのノウハウを知る。

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専門知と公共性

研究者の知的生産活動の意義を問うてみる。専門誌の編集・投稿・査読活動を行うコミュニティを「ジャーナル共同体」と呼ぶ。その重要性は4つある。(1)科学者の業績は専門誌に印刷され、公刊(publish)されることで評価される。(2)科学者によって生産された知識は、信頼ある専門誌に掲載許諾(accept)されることで正しさが保証される(妥当性保証)。(3)科学者の後継者の育成は、この種の専門誌に掲載許諾される論文を作成する教育をすることに始まる(後進育成・教育)。(4)科学者の次の予算獲得と地位獲得はこうしたジャーナル共同体に掲載許諾された論文の記された業績リストをもとに行われる。科学技術は「科学者や技術者のためにあるのではなく、Public(公共)のためにある」。

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美人論

「知性美」という言葉がある。美しさが知性と絡められた言説がある。「美しさという点だけからも教養が心の養いとして重要であります」「いくら美人でチャーミングでも、頭がよくなければブスにしか見えない」「やはり、賢い女は美しい」「私は、デパートをうろつくひまがあったら、本を読む方があなたの美しさを増す所以だと考えずにいられない」「書物への恋も女を美しくする」。美人になるという言葉で本を売ろうとする宣伝臭が漂う。明治期に見られた美人罪悪論、戦後の美人肯定論、そして「すべての女性は美しい」という言い回しまで、「美人」という概念の変遷を膨大な資料からたどっていく。図書館で収集した膨大な文献の引用は説得力を持つ。

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性表現規制の文化史

「人々はいつも「自分は悪徳に触れても平気だが、他の人は自分より道徳的・規範的に劣っており、悪い影響を持つと懸念されるものを規制して、他の人々を悪徳からほ保護すべきだ」と考えがちなのでしょう。そして彼らは、「他者も自分と同じ程度の道徳的・規範的水準にあるだろう。そして自分がこの程度の悪徳に触れたところで悪影響を受けないのと同じように、他者にもまた重大な害はないだろう」とは考えないのです」。性が抑制の対象となり、性表現が抑制すべきものと考えられるようになる。その抑制が法制化され、青少年を性から隔離すべきと考えられているのはなぜだろうか。私たちがなぜ「えっちなのはいけないと思います!」と反応してしまうのかについて考える。

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アメリカ教育使節団報告書

「税金によって支持される公立図書館も、思想の普及を計るもう一つの機関である。公立図書館は階級、財産、信条の障壁を認めない。利用したい者はだれもが利用できる。さらに、その書架および閲覧室には、論争的問題についてのあらゆる角度からの議論が並べられている。余暇を有益に過ごしたい人々にとっては、図書館は、つねに文化的歓びの源泉として開かれている」「国内の資料をすべての学生が利用できるようにするため、われわれは、各大学がその蒐集図書を統合整理して一つの総合目録を作成するよう考慮することを提議する」。戦後の日本の教育再建の基本方針をまとめた『アメリカ教育施設団報告書』には成人教育や高等教育も取り上げられている。公立図書館や大学図書館に期待されていることも記されている。

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街並みの美学

「詩人はつねに小さなもののなかに大きなものをよみとろうと身がまえている」「大きな空間には、大きな空間にしか存在しない価値があるが、一方、小さな空間──狭い空間ではない──にもはかりしれない魅力が存在するのである」「都市は、本来、コミュニティーからプライヴァシーにいたる段階的秩序によって成立していると考えられるが、都市が巨大化し雑踏化すればするほど、小さな静かな空間が必要となるであろう」。小さな空間は個人的であり、静寂で、想像的で、詩的で、人間的である。大都市の雑踏は匿名的で、喧騒で、現実的で、非人間的である。壁、広場、街路、建物の外観を美しく彩るための観点を示す。「都市には、もっともっと記憶にのこる空間を創るべきである」。

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十二世紀のルネサンス

「十二世紀の精神を研究する際に、いつも念頭においておかなければいけないのは、当時どんな本が入手でき、その本がどんな状況で作られ読まれたかということである。できれば、それぞれの著者について、その引用、旅行、読むことのできた本をもとに、知的背景を調べることが望ましい」「本を筆写するというのは、どんなによく見ても退屈な仕事だし、時にはずいぶんつらいこともあっただろう」「中世の書庫は、もちろん公共のものではない。当時はまだ読書大衆がいなかったのだ。またそれらは大学に生まれた貸出し文庫でもなかった。もっぱら所有者が利用するためのもの」。大学の誕生。ラテン語古典の再発見。ギリシャ語・アラビア語からの翻訳。歴史の叙述形式の変化。十二世紀のヨーロッパで学問が発達していく。

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1950年代

日本の戦後の歴史の記録。1949年までの資料はプランゲ文庫に収まっている。「1968年」や安保闘争への注目から1960年代も注目されている。しかし、その間に位置する1950年代は「図書館での資料整備も十分でなく、プランゲ文庫のような大きなアーカイブは望み得ない」とされる。それでもその時代にはさまざまな「記録」が生み出されていた。サークル運動と生活綴方・生活記録。闘争現場のルポルタージュ。テレビ放送開始とドキュメンタリー。ルポルタージュ絵画とリアリズム写真。国民的歴史学運動と紙芝居・幻灯。残された文章・音声・映像は世の中のできごとをどのように捉えていたのか。その「記録」は現実世界の動向とどのように関連するのか。図書館はそれらの「記録」にどのように向き合ってきただろうか。

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印刷に恋して

「日本語組版というものは、ものすごく面倒な手続きが必要だ。平仮名、カタカナに加えて漢字という厄介なものがある。同じ字でも、正字、新字、簡体字異体字とバリエーションがある。さらに欧文も入ることがある。縦組みの和文の中に欧文が横組みで入ってくると、そこで欧文のファンクションに切り替えて、また和文に戻す。ルビあり、割り注あり、( )の中のポイントを落としたり、そのときの都合で字間を詰めたり、開いたり」「出版というものは情報さえ伝わればいいというものではない。装幀・造本などまで含めて、それぞれの出版社のもつテイストも大切な文化の一部なのだ」。単に文字を並べればそれで本ができるわけではない。印刷を仕事にしている人たちは、本づくりにおいて何にこだわっているのかを知っておきたい。

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