毎日の図書館学

初めて図書館学に触れる学部1年生を想定して図書館に関係ありそうな本を毎日1冊ずつ300字程度で紹介します。

2021-01-01から1年間の記事一覧

考古学はどんな学問か

「よりゆたかな情報を得るためには、よりよい質を持った資料を求めなければならないし、より質のよい資料は、さらに深い情報の分析を可能にする。情報と資料の間には常にこのような関係が存在する」「考古学の本領は、文字による記録が未発達な古い時代の歴…

眼の神殿

美術という訳語がつくられ、その言葉が広まっていく。その過程から、美術という分類には何が含まれるのかを考えてみる。私たちが今現在当たり前のように考えている美術の分類というものも、近代化の歴史のなかでさまざまな駆け引きがあり、制度的な影響も強…

根をもつこと

民衆は文化に接近する。しかしそれが妨げられてしまう。その理由の一つは、時間とエネルギーの不足である。そもそも知的努力にさくことのできる余暇が少なく、疲労のために集中度が制限されてしまっている。そしてもう一つは、労働者の境遇には固有の感受性…

なぜならそれは言葉にできるから

「人間関係の一形式としての他者との会話なしには、我々は自分自身にも世界にも確信を持つことができない。我々は、自身の経験をひとつの物語にあてはめることを必要としている。人生がどれほど曲がりくねった道を進もうと、我々はその流れをなんとか形にし…

世論

「人間が自由に駆使できる言葉の数は、人間が表現しようとする概念の数より少ない」「自分以外の人たちの行為を充分に理解するためには、彼ら自身が何を知っていると思っているのかを知らなければならない」「どんな分野であれわれわれが専門家になるという…

アーカイヴズ

アーカイヴズの二つの役割。「第一に挙げられるのはその法的・証拠的性格であり、権利義務の根拠や実務上の有用性のため参照される。これは行政・経営の透明性や説明責任とった点にもかかわる、すぐれて公的な側面である。第二の役割は歴史研究上の史料とし…

アラン島

「数年前までは、この少年のような強い知的好奇心をいやすためには、年寄りのところへ話を聞きに行ったものだが、今ではダブリンから送られてくるアイルランド語の書物や新聞を読むのだ」。1900年前後にアラン島を5回訪れた詩人の紀行文学。そこに暮らす人々…

ハマータウンの野郎ども

「反学校の文化を了解しようとするなら、私たちはその文化とは別のところに出発点を求め、文化の外側をにらみながら再構成を試みる以外にない。すなわち、現代資本制社会における労働過程の性格、人間労働の全般的抽象性、性差別、支配的イデオロギーなどを…

反穀物の人類史

「現場での国政術を長らく経験してきた小農たちは、国家が記録と登録と測量の機構だということをつねに理解してきた。だから、政府の測量士が白紙の表を携えてやって来たときや、国政調査官がクリップボードと質問票を持って世帯の登録に来たときには、臣民…

触発する図書館

「図書館の可能性は人間の可能性であり、また、図書館建築の可能性は、創造的な人間を成長させる空間の可能性でもある」「図書館という空間は、すべての要素が響き合い、共鳴し、お互いに刺激を与え、触発する空間です。本と本、本とコンピュータ、本と本棚…

沈黙の世界

「沈黙は言葉の放棄と同一のものではない。沈黙は決して、言葉が消失したあとに取り残されたような、見すぼらしいものではない。沈黙は或る種の全きもの、自己自身によって存立する或るものなのである。沈黙は言葉とおなじく産出力を有し、言葉とおなじく人…

ずこうことばでかんがえる

「じぶんが ひつようだと おもっている ものが じつは それが あることで ほんとうに だいじな ものを かくして しまうことが ある ということです」「ぐうぜんを いかすとは まわりを うけいれ その ちからを ひきだす という ことです」「つたえようと し…

本と校正

「語られることばと書かれることばとは、いうまでもなく、そのあり方がちがう。と同じように、書かれたことばと印刷されたものとは、やはり、そのあり方がちがう。書くときには書く約束、つまり制約・ルール・条件があるが、印刷には印刷という技術からくる…

読書と人生

「書物の珍しかった時代の人間が書物によって得られた幸福の分量なりが現代の吾々のそれよりも多大であったことは確であろう。蘭学の先駆者達がたった一語の意味を判読し発見するまでに費した辛苦とそれを発見したときの愉悦とは今から見れば滑稽にも見える…

チーズとうじ虫

「宗教改革のおかげで、たんなる粉挽屋が発言することを考える、すなわちローマ教会や世界についてのかれ自身の意見を述べようと考えることができたのである。印刷術の普及のおかげで、かれのもとでふつふつと沸き立っていたこの世界についてのぼんやりとよ…

絵本のなかへ帰る

「三回同じ本を図書館で借りたら買ってあげてくださいね、という本屋はいるが(私のことだ)、図書館員もそうであってほしいと願う」「本を薦めるということは、言い方を変えれば、あなたはこの本を薦めるに足る人である、ということでもある。本を薦められ…

二つの文化と科学革命

「学問分野を分類するときに使う軸の一つは、この点で特に重要性を帯びる。執筆活動との関係は、学問分野ごとに明らかに異なるのだ。多くの種類の実験科学において、書くということは、真に創造的な役割は果たさない。書くこと自体は、人文学においてとは違…

子ども文庫の100年

「公立図書館の児童サービスが、良質の児童書出版に必須だということであった。よく整備された図書館網、よく訓練され、広い知識と高い見識を備えた児童図書館員、彼女たちによってよく選ばれた蔵書、子どもの反応に基づいて、出版社へ送られる図書館からの…

編集者国木田独歩の時代

「従来、目に見える事物を記録したり保存するビジュアルな手段といえば、絵画のことだった。しかし、十九世紀前半に写真が発明されると、世界中の人々に驚きと感動をもって迎えられた。写真のほうが絵画よりも、はるかに正確にものの姿を再現することができ…

縁食論

「「サードプレイス」が持つ機能のなかで、オルデンバーグは重大な機能を見落としている。それは、排除的な社会をほぐしていく機能にほかならない。パンデミックの孤独を生きるひとり親たちにとって、オルデンバーグの「サードプレイス」に浮上するきっかけ…

ナチュラリストの系譜

「植物・動物・鉱物に関する知識は、薬を求めることから古くから発達した。それは、「本草」と呼ばれた」「わたしたちが自然のなかにあるとき、植物や動物の多種多様性に気がつくのである。自然を探求するナチュラリストたちはこの千変万化の植物や動物を知…

古書修復の愉しみ

「本が機械で大量生産されては捨てられていく時代の中で、貴重な古書を手で丹念に修復するという営みは、どのような意味をもつのだろうか。それは決して単なる時代錯誤やノスタルジアではない。現存する価値ある書物という知的財産を、数十年、いや数百年に…

書き換えられた聖書

「人間である書紀が聖書のテキストを複製し、改竄したのと同様、元来のテキストそのものもまた人間である著者が書いたのだ。これは徹頭徹尾、「人の書」なのだ。それぞれ異なる人間の著者が、それぞれ異なる時代に、異なる場所で、異なる目的のために書いた…

日和下駄

「路地はいかに精密なる東京市の地図にも決して明には描き出されていない。どこから這入って何処へ抜けられるか、或は何処へも抜けられず行止りになっているものか否か、それは蓋し其の路地に住んで始めて判然するので、一度や二度通り抜けた位では容易に判…

「民都」大阪対「帝都」東京

「近代国家の形成と協働して敷設されていった鉄道は、中央集権化のメディア(人間の行為や経験の構造を変容させる技術的装置)である」「このようなメディアとして鉄道が意識されたのは、決して日本だけではなかった。鉄道の先進国であったヨーロッパ諸国に…

パンデミック下の書店と教室

「みずからの欲望に気づく、いわば欲望をインプットされるためには、膨大な言葉の中に浸ることが必要なのです。インプットされるのは「情報」だけではありません。人間の感覚は自分が思っている以上に優れ、感情が捕まえる世界は思いもかけず豊饒です。「思…

東京の地霊

東京・上野にある上野恩賜公園に目を向ける。国際子ども図書館のほか、東京国立博物館、国立西洋美術館、国立科学博物館、東京都美術館、東京文化会館、上野の森美術館、上野動物園、東京藝術大学など、多くの文化施設が建ち並ぶ。元は江戸城の鬼門を鎮護す…

博覧会の政治学

「ある生物を記述することは、その器官がいかなるものであるのかを述べるというだけでなく、それが登場する伝説や物語、それについて古代人が語ったこと、旅人が話したことなどすべてを同時に記述していくことだったのである」「自然とは、まぎれもなく一個…

本屋風情

「私はこの辞典の編纂が進むにつれ、世間でこの辞典を、先生の発意でなされたと思われては困る。そしてこの辞典の普及の仕方によっては、先生畢生のお仕事だろうと思われはすまいか、それは更に困る」。博文館『辞苑』が世に生み出され、岩波書店『広辞苑』…

西洋の書物工房

「私は本に携わる多くの人が、「物」としての本に、あまりにも無関心だと考えている。たとえば、司書の資格を持ち図書館で働く人たち。普通、彼らは本についてよく知っていると思われている。しかし、彼らに「モロッコ革」とはどんな革なのか、「マーブル紙…